『和翰名苑』仮名字体データベース The Wakan Meien Hiragana Grapheme Database

字体集成としての『和翰名苑』

『和翰名苑』仮名字体データベースは,仮名字書,滕孔栄『和翰名苑』(1765)の構造を可視化したものである。仮名字書とは,古筆に取材して仮名の例を集成したものの謂であるが,『和翰名苑』は,その仮名字書のなかでももっとも古いもののひとつである。全三冊。文台屋本が初版と見られる。いろはごとに節が別れるが,はっきりとした分類を施さずに漫然と字形による類聚を行っている。これは,仮名研究書の影響を受けて字源による分類に傾いた後世のものとは異なる。

しかしながら,かえってそのことによって,類聚の背景にある字体意識をなによりも示す結果となっている。字源による分類では,字源との「距離」による排列が主であり,そこにあとから字体意識を見いだすのは恣意を免れないが,本書では字源によって整理されていないので,字形の並びから群を見いだすのは,おおむねにおいて,自明のことである。もちろん,例に乏しい群では,それ相応の困難を有するが,本書の目的が群を示すことにはない以上,そもそも十全たる分類は期しがたいものであり,また,多くの群における字体意識の顕在と齟齬をきたすようなものでもない。

このように,『和翰名苑』は,字体集成的な性格があり,ここに『和翰名苑』の字体意識を探る価値があるのである。このようなものに現れるのは,ひっきょう,字体意識であって個々人における字体表象のありようではないが,多様な字体を含むものとしての平仮名はすでに「母字」として習得されることはなく,制限的な字体表象に付け加えるかたちで習得されるものと思われ(この点,さらなる検討が必要ではあるが),わたしたちが異体仮名について考えることには,どうしても「非ネイティヴ・ライター」としての躊躇が伴うのであった。字体分類法を検討したものとして,内田(1998)やそれを敷衍したOkada (2013)があるが,いずれも同時代人に聞き取りをしたわけではない。ひるがえって,『和翰名苑』の著者は,それらがありふれていた時代の平仮名の字体表象を「母字」として習得しており,その目を通して集められた字形は,その群化のありかたを一種の内省報告として捉えることができる。

もちろん,群化がそれとして明示されているわけではないから岡田の恣意に従うところはあろうし,そもそも,この内省報告をどのように受け止めるかはなお慎重に検討すべきことであるが,ひとまずそれとして群化のありようを報告すべきものと考え,データベース化を行ったものである。

データベースおよび字形群について

本データベースでは,後刷本の国会図書館本(請求番号: 121-60)をもとに,一字一字の画像を切り出し,データベースとしたものである。

そのうえで,類似字形の類聚をまとめた。その方法については,以下のごとく岡田(2016)に述べたところである:

類似字形群の認定にあたっては、字形の類似にくわえ、群のありようとして「純粋」か、あるいは「混在」しているかに着目した。具体的には以下の基準に基づく。まず、同一の字体の連続を一群とし、「純粋群」と呼ぶ(注二)。同一の字体であるとは、内田(一九九八)が論じるごとく、交叉や折れ曲がりなど等の筆画の様態が同じであることとする。いっぽう、同一の字源に発する字体が混在してそれだけでは群をなさないばあい、たとえば字体Aと字体BがA・B・A・Bなどのようにあっていずれも単立の群として認めがたいばあいには、これを一群として認め、「混在群」と呼ぶこととする。

注二 なお、べつの箇所で群をなしているような字形が一文字飛び石的に含まれるばあいには飛び石のみの類似字形群を立て、その前後で群を分かつことはしない。あるいは飛石的にある一字が前後の群に二文字以上の距離を開けずに連続してあるばあいには、それをべつの群として扱うことをしない。

すなわち,ひとつの字形はかならずひとつの字形群に属し,また,ある字形群はある字体と対応する(ものと思われる)が,ある字体は特定の字形群と対応するわけではないということである。後者に関しては,いずれ分類方法を案出して形式的に同値のものを扱えるようにしたい。

字形では,所在情報を巻・見開き・行・文字の順に示している。ここでいう見開きとは,本文の開始する見開きを1として何番目の見開きであるかを示す。

岡田(2016)との相違点

本データベースは岡田(2016)にまず報告したところであるが,その後の検討により細部に異同が生じたので,ここに示しておく。

文献

Wakan Meien as a dictionary of hiragana graphemes

The Wakan Meien hiragana grapheme database presents a reconstruction of a hiragana dictionary of the eighteenth century, Wakan Meien (和翰名苑), written by Tō Kōei (滕孔栄), published in 1765. A hiragana dictionary refers to a collection of handwriting; it comprises authentic examples of calligraphy by characters. One of the main purpose of such compilation is to compare exemplars of each character in various styles and hands. Wakan Meien is one of the oldest compilation of hiragana examples, following the examples of Chinese characters. It consists of three volumes. The first impression appears to be distributed by Bundaiya, a Kyoto printer. Sectioned by

About the database

To be prepared…

Literature

『和翰名苑』仮名字体データベース
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所 岡田一祐 <k-okada [at] tufs.ac.jp>

Public Domain Mark
『和翰名苑』には、知られている限り、著作権の制約が存在していません。

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
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The Wakan Meien Hiragana Grapheme Database by Kazuhiro Okada, ILCAA, TUFS <k-okada [at] tufs.ac.jp>

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